東京厚生年金病院 > 健康診断・健康教室のお知らせ
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スポーツ・健康医学実践センターは2010年9月に開設されました。
現在、スポーツ部門では、
スポーツ外来
野球肘検診(成長期スポーツ肘検診)
を中心に行っています。
申し込みはリンク先をご覧下さい。
13、14歳の少年が肘に痛みを覚えて外来を受診します。診察すると関節は腫れて、曲げ伸ばしが制限されています。レントゲン写真を撮ると関節の外側が壊れて、関節内に遊離体(関節ネズミ)が存在します。これは離断性骨軟骨炎という最も予後の悪い障害です。この障害は野球選手に多くみつかりますが、テニス、卓球、器械体操、水泳、剣道などあらゆるスポーツでもみられます。
検診の第一目的は「早期の離断性骨軟骨炎をみつけること」です。第二の目的は内側上顆障害などの他の肘の障害の発見です。その他にも肩や膝、腰、足などの障害についても問診をして、必要に応じて診察します。検診は問診、診察、エコー検査からなります。問診では野球開始年齢やポジション、痛みの部位についてたずねます。診察では可動域、圧痛やストレス痛の有無を調べます。エコー検査は離断性骨軟骨炎をみつける鋭敏な検査方法で小さな病変部も拾い出せます。一連の診察の後に総合判定を行い、異常が疑われた場合はさらに精密検査をして、病期や病変の大きさを調べてから治療を開始します。
普通一般の病気やケガは熱や痛みなどの異常を感じてから病院に行けば十分です。しかし乳ガンや子宮ガンなどの病気は異常に気付いてからでは手遅れの場合があります。離断性骨軟骨炎もガンと同じように発生初期は症状に乏しく、痛みや可動域制限が出た時は進行していることが多いのです。初期の約半数はまったく痛みや腫れなどの症状がありません。発生に気付かずにスポーツ活動を続けていると、1,2年して症状がはっきりしてきます。
また発生初期は病変が小さいので検査の仕方によっては診断されなかったり、見落としたりすることがあります。将来のあるお子さんのためにも、経験豊富な当院専門医のもとで検診や診察を受けてはいかがでしょうか。
障害をみつけるのは検診でも保険診療でも変わりはありません。我が国の医療制度では、痛みや関節の曲げ伸ばしに差がある等の症状があれば健康保険での診療となります。しかし、原則として全く症状の無い場合には健康保険は適応できないルールになっています。そのために検診を行っています。
異常のない人にレントゲン写真を撮るのは被爆を考えると好ましくなく、MRIを自費で行えば3万円以上の費用がかかります。そのために当院の肘検診では被爆が無く、安価で、精度の高い検査としてエコー検査を採用しました。
表1は少年野球の大会現場で行った検診と一般外来の離断性骨軟骨炎の病期を比較したものです。検診でみつかったグループでは約95%が初期ですが、外来でみつかったグループでは初期はわずか30%で、残り70%は進行していました。このことから早期の離断性骨軟骨炎を発見するには検診が効果的であるのは明らかです。初期例では90%以上の確率で保存的に完治します。進行期では保存的治癒は50%に減り、半数は手術が必要となります。終末期では全例で手術が必要ですが、それでも完治は難しくなります。
表1:離断性骨軟骨炎の発見方法と病期
離断性骨軟骨炎は11歳前後に一定の割合で発生することがわかっています。以前は外傷によって発生すると考えられていましたが、まったくスポーツをしていない子どもに発生したり、兄弟内で発生したりすることが報告され、発生には内因が強く関与することがわかってきました。「我が子に限って…」と楽観せずに、自覚症状や他覚所見がなくても検診を受けていただくことをお勧めします。
初発年齢は9歳から12歳で、好発年齢は11歳前後です。保存的治療で完治できる状態で発見するためには、9歳から12歳までに検診を半年に1回受けることが理想的です。13歳以降で上腕骨小頭の骨化が完了すると、離断性骨軟骨炎は新たに発生することはありません。この年齢からは内側や後方などの別の部位が障害されるようになります。特に検診をお勧めするのは以下のような方々です。
投手や捕手の経験がある
これまでに肘の痛みがあった
連投の経験がある
曲げ伸ばしで左右差がある
肘の外側が腫れて突出している
兄弟が離断性骨軟骨炎と診断された
痛みや曲げ伸ばしに差があればスポーツ外来(保険診療)、
痛みなどの症状がなければ肘検診(自由診療)です。
野球肘、テニス肘、ゴルフ肘、スイマーズショルダーなどとスポーツ種目の名前のついた障害はたくさんあります。一般の方々はこういった言葉は疾患名だと思っているのではないでしょうか。確かに保険病名が「野球肘」や「テニス肘」でも通用しますが、実はこれは総称名であって学術的な診断名ではありません。腹痛や頭痛という言葉と同じです。腹痛のなかに便秘もあれば、ガン、潰瘍、胆石、腸閉塞と様々な疾患が含まれています。野球肘も野球で起こった肘の外傷と障害すべてを含む総称名なのです。したがって病院に行って診てもらった時は、疾患名は何か、どこがどのようになっているのか、どのように対応したらよいかをしっかりと医師に聞いてください。
野球肘の分類はスロウカム分類が広く用いられていますが、これは主に大人の野球肘の分類で、成長途上にある子どもの障害を対象にしたものではありません。子どもは大人のミニチュアではなく、関節の大きさだけでなく、骨や軟骨の状態、筋肉や腱の強さも異なり、診断方法や対応が違ってきます。骨化進行過程にある成長期では骨端とよばれる成長軟骨が力学的に弱い部位であるため、この骨端の外傷や障害が多くなります。骨化の完了した成人期では力学的に弱い部位が靱帯などの軟部組織になります。そのための成人期では骨軟骨傷害に加えて、靱帯や筋腱の外傷、障害が増えます。
野球肘の分類:成長期と成人期で分けて対応
離断性骨軟骨炎は関節軟骨の下にある骨の壊死です。詳細な発生メカニズムはよくわかっていませんが、何らかの原因で軟骨の下にある骨を栄養する血流が遮断されて壊死に陥ると考えられています。壊死に陥っても早期に発見して病変部に無理な力が加わらないように安静にしていると血行が再開して新しく骨ができてきます。発見が遅れて病変部に力が加わり続けると関節軟骨に傷ができ、骨軟骨片が動き出します。さらに病変が進むと骨軟骨片は遊離体(関節ネズミ)となります。下図は離断性骨軟骨炎の病期を示した模式図です。
治療法のなかで、完治が望める最も良い方法は保存治療です。実際に治っていく様子を典型例で紹介します。

保存療法ではまさに「完治」という言葉を使えるまでに治りますが、外側から中央に及ぶ通常タイプでは約1年の治療期間を要します。この期間は野球を含めてスポーツ活動を制限する必要があります。この1年間を長すぎると感じるかどうかはそれぞれの価値観によりますが、私は「長すぎる」とか「遅れをとる」とは思いません。高校での1年間は確かに大き過ぎますが、11、12歳での1年間はむしろ辛抱という将来への肥やしになると思います。現に肘を治して高校でレギュラーを勝ち取った選手はたくさんいます。
次に手術について述べます。手術は1)保存的治療を試みたが、どうしても治らずに病巣が残ってしまった場合、2)発見時に既に進行して機能障害が著しい場合に行います。手術しなくても治るような症例に治療期間を短縮させようと安易に手術を適応するものではありません。離断性骨軟骨炎に対して現在主に行われている手術方法は、1)骨軟骨片の固定 2)関節面の再建 3)遊離体の摘出 4)関節内の郭清(クリーニング) 5)楔状骨切りです。いずれの方法を選択するかは主治医の考え方や経験にも左右されますが、最も大切なことは機能を回復させることです。本来の形に戻すことも大切ですが、そのために大きな負担が加わるようなことがあってはならず、機能を改善させることを最優先させるべきです。病巣の大きさや状態によって大きく3つのパターンがあります。
私は手術をする前に十分な保存療法を行って病巣をできるだけ小さくしてから、残った病巣に手術をします。そのために、②や③の手術をすることはめったにありません。30〜50例に1例くらいの割合でしょうか。ほとんどが①の関節鏡視下の郭清(クリーニング)術です。実際の症例で具体的な方法を示します。まずは関節内の遊離体(関節ネズミ)がどういったものかを紹介します。




上段の灰色の物体が関節ネズミです。米粒大から空豆大、丸いものから金平糖のようなものまで様々です。数も1個から多い時は十数個ということもあります。下段は内視鏡で実際に関節内を観察したものです。実際の遊離体の表面は軟骨で覆われているので白くつるつるしています。鉗子でつかもうとすると、スルリと逃げて捕らえにくいものです。関節ネズミといわれる所以はそのためです。
次に実際の手術方法を示します。
この郭清(クリーニング)術は機能回復を目的とした手術方法ですが、適応する時期や病型がよければ関節の形態もみごとに修復されることがあります。その典型例を紹介します。

12~13歳で骨端線の閉鎖前後の時期に関節鏡視下郭清(クリーニング)術を行った場合、郭清(クリーニング)後の陥凹した部分に新たに骨が作られて、元通りの形に修復されることがあります。トカゲの尻尾の再生と同じような、関節面の再生現象です。ただし、いかなる手術方法でも壊れて歳月の経った関節を元通りに復元することはできません。破壊の進んでいない時期に発見して治療することがポイントです。そのためにも定期的に検診を受けて、早期に発見することが大切です。